耽美なる箱庭

02:朱に交われば赤くなる


〔 モブ side 〕


 泗水 乃々は、別格だった。

 中学の入学式で、辺りを騒然とさせた美少女。私も例に漏れず、釘付けになった。どう足掻いても逃れられないほどに、彼女は衝撃的だった。

 そんな彼女との出会いは、日暮れの空き教室。




 ──ポーン、鍵盤が跳ねる。

 校舎の端にある空き教室。そこには、もうすぐ処分されるピアノが放置されていて、私はよく弾きに来ていた。

 ただ、気ままに弾きたい。

 楽譜を気にせずに、自分の好きなように。



「……誰が、ピアノ? ……わぁっ!」

「!?」



 音色に引き寄せられたのか、泗水乃々は少し開いていたドアの隙間から顔を覗かせた。

 けど、私と目が合うなり、驚いたように尻もちをついて背後に転がる。私もピアノを弾く手を止めて、目を丸くした。



「あの、大丈夫ですか……?」



 慌てて駆け寄れば、彼女は手を顔の前でぶんぶん振りながら、恥ずかしそうに頷く。



「だ、大丈夫です……! ピアノの音が聴こえて、楽しそうだったからつい覗いちゃって……ごめんなさい」

「ぜ、全然! えっと、泗水さん、だよね」

「泗水乃々です。あなたは……」



 自己紹介なんてしなくても、全学年が名前と顔を把握しているというのに、目の前の美少女は驕ることのない可愛らしい対応をしてくれる。

 引っ込み思案というのは、本当らしい。



「同学年で、1組の藤野です」



 立てるように手を差し伸べ、苗字を伝えると「ありがとう、藤野さん」と彼女は頬を緩めた。
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