耽美なる箱庭
間近で見る美少女、パンチがある。
化粧してないのに、肌は雪を欺くくらいに綺麗で、睫毛もマスカラ塗ったみたいに伸び、唇もちゅるんとしている。顔の造りが、常人と全く違った。
「ピアノ、なに弾いてたの?」
興味ありげにピアノに視線を向ける泗水乃々は、音楽が好きらしい。
彼女のお母さんは歌手で、お父さんは音楽家。
音楽に触れてきた機会は一般の人と比べたら多いのかもしれないと、私は勝手に解釈した。
「きらきら星変奏曲だよ、モーツァルトの」
「へぇ……! 馴染みのあるメロディーだなって思ったけど、モーツァルトだったんだ!」
言動、全てが可愛い。
容姿の美しさに加えて、ころころと変わる表情に見惚れてしまうし、身振り手振りにも可愛さがあって、気を抜くと笑ってしまう。
ポーン、と鍵盤に指を置いた彼女は「少し聴いてもいい?」とあざとくお願いしてきた。
そんな可愛い顔で言われたら、答えはひとつ。
「いいよ。なにかリクエストある?」
にぱっ、と綻んだ口元。
「じゃあ、エリーゼのために! お願いします!」
「ベートベンね、了解」
静寂な空間に、ピアノの音色が響き渡る。
夕暮れの空き教室で、私は軽やかに鍵盤を奏でた。