九十九集の忽那さん
ツクモスダキのクツナさん
 当リサイクルショップは、歓楽街のハズレで小ぢんまりと営業し始め一五年が経つんだとか。狭い店内に所狭しと積み上げられている商品たちは、店の中をホコリ臭くて薄暗い空間にしている。
 今日も朝一〇時からのーんびりと開店。世間の忙しない朝がまるで異世界に思えるくらいにはのーんびりとしている。
 店の扉を開けたあと、椅子やツボなんかの大きくて重い商品を店前に出しながら『一般社会』の朝を遠巻きに眺めるのが、わたしのちょっとした日課でもある。
「すみません、買い取りお願いしたくて」
 開店三〇分後。ぼちぼちやってきたのは買い取り品の持ち込みをするお客。今日はこの同い年くらいの女性が一番乗り。ただ、なんだか浮かない顔。
 薄く笑んで「はい、ただいま」と返したわたしは、運んでいた古い木製チェストをゆっくりと定位置に下ろし、お客のもとに戻って彼女が持ってきた大きな紙袋の中身をサラーッと改めた。紙袋は三つ分。ギュウギュウと彼女の私物が詰められている。
 ざっと内容を把握してから「こちらへどうぞ」と促して、店奥のレジ付近で手書きの帳簿をつけている店長の忽那(くつな)さんの元に急ぐ。
「忽那さん、買い取りのお客さまお願いします」
「はぁーい、よっこいせ。お品はなにかな、服? 靴? バッグ?」
「服も靴もバッグもです」
「ありゃー、大正解! 超能力かもねーぇ! なあーんちゃって。あっはっは」
「ソウデスネ」
 忽那さんは、店の雰囲気と同じかそれ以上にのーんびりとした速度と雰囲気の男性。まるで九〇歳のおじいちゃんが三分の一歳分の若い人に擬態しているみたいな感じ。
 見た目は年相応といった感じで若々しい。腰まで届く長く細い黒髪を後ろでひとつに纏めていて、常にゆるい和装で過ごしている。一見オシャレには見えるのに色気もへったくれもないのは、絶対に雰囲気がのーんびりだからだろう。顔はそこそこ整っているだけにもったいないと思う。
「じゃあ査定に入りますから、お客さまは店内をどうぞどうぞ、ゆるーりとご覧ください」
「は、はぁ。よろしくお願いします」
 そうして浮かない顔のお客から紙袋三つを受け取ると、忽那さんはたちどころにレジの隣の大きなテーブルへ査定品をざらざらと広げた。
 わたしは忽那さんの作業の邪魔にならないところで、メモ用紙と鉛筆を手に待機。と言っても、裏紙のメモ用紙と、切出刀(きりだしとう)でチマチマ削っている不格好な鉛筆ばかり。忽那さんが貧乏性なのかエコなのかは各々の判断にお任せなところです。
「おぉ、さすが(まり)ちゃん。準備万端だねぇ」
「当然です」
「ふふ。じゃあ値付け作業までお願いしまぁす」
「はいもちろん」
 わたしは、そんな忽那さんのもとで働いている茶山(さやま)(まり)。新卒入社の二二歳。とはいえアルバイト。
 満を持して挑んだ就職活動で大失敗してから立ち直れず、在籍していた大学は取り敢えず卒業したものの、そのまま社会の荒波とか雑踏の中に無職のまま放り出されてしまった。
 途方に暮れていたとき、何の気なしに見つけたのがこのお店だった。通りすがりにアルバイトの募集をしていたからダメもとで飛び込んだところ、忽那さんは快く採用してくれて現在に至るってわけ。
「じゃあいくよ? 一番ファーコート、三万千円。二番革ジャケット、二万五千円。三番――」
「くっ、相変わらず速っ」
 ひとたび査定になると、忽那さんはこんな風にひとが変わる。のーんびりした空気はどこへやら、パキパキと目利きの才能を遺憾なく発揮している感じ。この速さに着いていくのは正直至難の(わざ)。わたしだって、勤務三か月目にしてようやく慣れてきたところ。……でもどうせなら、普段からこれでいてほしい。
「じゃあ、売値はこれでよろしくぅ」
 わたしがメモした買値の横に売値を殴り書いて、全二六品の査定は終了。
「またこんなにたくさん、しかも高額で買い取っちゃって。本当に大丈夫なんですか? どこに並べるつもりです?」
「だーいじょーぶ、新品同様だったもん。それにね、ここに在る物のすべては、然るべきひとが然るべきタイミングでお引き受けにいらっしゃることになってるんだから」
「そうやって根拠ないことばっかり言って」
「ホントーだってぇ。安心して、みんないいひとが連れ帰ってくれるからねぇ」
 そう言って、忽那さんは査定を終えたばかりの品々を愛おしそうに眺めていた。今の言葉はわたしに言ってたんだか、まさか査定品に言ったんじゃなかろうな。
 ぶっちゃけた話、忽那さんが買い取らない物はない。誰が見ても売り物にならないとわかる状態の物でも、なぜか一円は付けて買い取ってくる。そしてそういう『見切り品』は、なぜか突然確実にお客の誰かの手に渡るのだ。正直信じられないけど、何度もその場面を見ているから信じるしかない。
 忽那さんは随分スッキリとした顔をして、レジから買取金額の札束と小銭を取り出した。そしてウキウキとした足取りで、店内をうろついているであろうお客のもとへ向かっていく。なんか、査定することがストレス発散だと思ってない? 売買よりも査定が一番楽しそうだもの。
 わたしはというと、これから忽那さんの殴り書きを元に、買取商品たちを在庫化する作業へ移る。ひとつひとつに付けるための値札を書き、それを商品に付属し、商品情報をレジへ打ち込む流れだ。
 フゥーとひと息をついてから、広げられたままの査定品たちへ目をやる。
「ほんとだ。新品未使用ばっかり」
 査定品と忽那さんの殴り書きの値段を見比べていくと、どれもこれも高額な理由がようやくわたしにもわかった。でも一応ひとの手に渡っているから、店頭販売価格では買い取っていない。それでも高額には変わりない。
「なんか、もったいないなぁ」
 手近にあったコートの袖口のファーをやわやわと撫でる。すんごい柔らかい。ミンクかな、チンチラかな。こんなのわたしじゃ到底手が届かない。そもそも似合いもしないだろうけど。だからこそ、きちんと着てあげてほしかったなぁと思ってしまう。
 わたしの推測だけど、今のお客は恐らく夜の嬢だ。そしてこれらは嬢への貢ぎ物(プレゼント)の可能性が高い。そういうのは持ち続けずに早めに売ってカネに変えるのが通例だって、嬢をやっていた友人がよく言っていた。「誰某(だれそれ)貢ぎ物(プレゼント)は身に着けているのに、どうしてオレのは着けてくれないんだ!」などのトラブル回避術なんだとか。それなら新品同様なのも頷ける。
「あれ?」
 コートとコートの間に埋まっていたブランドもののショルダーバッグの傍に、何やら古めかしい箱がチラり。手に取る前にアクセサリーケースだとわかった。指輪がピアスかブローチか……そんなような小さなものが入る、角の取れた立方体のケース。
 査定品メモを見ても、それらしい物は見あたらない。一円すら付けないなんて忽那さんのミス? いや、まさか。こんなこと今までなかったもの。でも……。
「やあやあ鞠ちゃん、ありがとう。打ち込み進んでるぅ?」
 ゆるゆるとした歩みで忽那さんが戻ってきた。顔を上げて小さく首を振る。
「やろうと思ったんですが、未査定の物を見つけまして」
 これ、とアクセサリーケースを手に取り、忽那さんへ向ける。忽那さんはなんてことのない声音で「あぁ、それね」と一瞥(いちべつ)するだけに留まった。
「査定品じゃないから査定してないだけだよ」
「……はい?」
 忽那さんが履いている黒革ブーツの低いチャンキーヒールがコツ、と鳴って立ち止まる。査定品で溢れかえっているテーブルへ両手をついて前のめりの体勢になる。
「今のお客さま、二〇分くらいでこれを取りに戻られるよ。だから避けておいてあげてね」
「いやいや。じゃあそれって『忘れ物』とか『紛れ物』じゃないですか! 早く追いかけて返さないと!」
「ううん、違う違う。彼女、本当にそれ売っちゃうつもりだったから」
 はあ? と顔がぐんにゃり。どうしてそんなことが忽那さんにわかるわけ? あんまりにも納得がいかないからそのまま訊いてみた。
「もちろん教えてもらったからだよ。『そのお方』に」
「……って、またそれですか」
 そう。忽那さんの一番の不思議なところはコレ。忽那さんはどうやら品物と会話ができるらしい。
 この店での勤務当初から、忽那さんの独り言の多さがやたらと気になっていた。でもだんだんそれが独り言ではないとわかった。なぜなら独り言で解決しているような言葉並びではないことが何度もあったから。
 例えば電話の応対をしている姿を傍から見ているような。例えばインカムで遠くのひとと短い相談を重ねているような。
 そんな、一方通行ではない『会話まがい』が買取を受けるたびに頻発(ひんぱつ)するから、ついこの前「商品と会話してるみたいですね」と揶揄(やゆ)してみた。
 するとまさかの「鞠ちゃんにもわかる?」と返ってきて目を丸くした。それからなんだか引くに引けなくなって、今もこうして渋々『その設定』にノッてあげているという。 
「さっきの彼女、かなり不安そうにしてたでしょう。売りたくない気持ちでいっぱいだったんだろうねぇ。……あー、お祖母様の形見でしたか。フム、それで殊更(ことさら)お悩みに……ええ、ええ。それで手放すことにねぇ。あのね、『この方』いわく、借金か何かのために早急におカネが必要だったそうだよ」
 始まった。こんな感じで会話しているんだもの、忽那さんが霊媒師だとか妖怪だって言われても納得してしまえそう。
 間もなく忽那さんは、その他の買取商品も交えた会話を始めてしまった。半分聞こえない『会話』をBGMに、わたしは本来のやるべきこと『値札作成』を開始。
 淡々と業務をこなしていくにつれて、忽那さんも会話が盛り上がっているみたい。だんだん「あっはっは」なんて笑い声まであげ始めた。ここまでくると、妄想が随分と捗っているんだなぁという感心が勝る。日頃から変な人だと思っていたけれど「まさかここまでとは」……なんて、どっかの二次元イケメンが死に際に呟いたときみたいにうっかり失笑してしまった。
「いやあ、違いますよ。僕はたんに『スダキ』なだけで、皆さま方が思うようなご大層な者ではありませんよぅ」
 スダキ? なんだろう、それ。
 うっかり手が止まって、意識も忽那さんの話に釘付けになってしまう。
「あぁちなみに、『集まる』と書いて(スダキ)と読むんだよ。元来の意味は、大量に寄せ集まるような意味なんだけど、僕の役職の『(スダキ)』は、物に宿るオツクモサマたちを然るべきひとと然るべき場所へ導きお繋げすることなんだ」
 言いながらゆっくりとわたしを向く忽那さんとバッチリ目が合った。加えていつものように優しく『にこ』とされる。うっ、盗み聞いてたのバレてた。しかも敢えてわたしへ説明してきた。
 ……っていうか、なんだそれ? おつ、オツクモサマ? お繋げ? いろいろ具体的に何なのかわからん。
「ちょ、ま、とりあえずごめんなさいっ。盗み聞いてたみたいになっちゃったのは、その、謝ります」
「違う違う、鞠ちゃんにも聞いてほしかったの。ここで働いてくれてる以上、ホントなら始めに言っとかなきゃいけなかったことだからねぇ」
 そう言われても申し訳なくて、わたしは「スミマセン」を言いながら、まるで背の高いヒマワリが(しお)れるみたいにヘロヘロと頭を下げた。
「鞠ちゃんがあんまりにも優秀だから、怖がられたり辞められちゃうと困っちゃうなーと思って、ついつい伝えるの先延ばしにしちゃってたんだ。僕の方こそゴメンね」
「そん、そんな別に、わたしは何をするにも中の下で……」
 所在なさから忽那さんと目を合わせずにいると、テーブルを挟んだ向こうの忽那さんはチャンキーヒールをコツ、コツ、とゆっくり鳴らして、レジ側へ二歩分距離を詰めた。
「よかったら、鞠ちゃんも聞いてくれる?」
「も、そりゃもちろん」
「ありがとう。じゃあ、話のどこで引っかかってて思考停止してる?」
「あーえと。スダキ? もわかんないですが、オツクモサマ? も曖昧です」
「フム。オツクモサマはね、九十九(つくも)神様のことだよ」
「て、万物に宿っているって言われてる、幽霊、みたいな?」
「そうそう」
「で? そ、そのお九十九様を、集めるお仕事? を忽那さんがしてるってこと、です?」
「ふふ、そうそう。けど意外だったよぅ、相当驚かせちゃったんだねぇ。鞠ちゃんならもうとっくにわかってると思ってた、僕の正体」
「わかりませんよ! 人間に化けてる妖怪ですって言われても納得できそうだなとか、単純にイタめの人なんだなと思ってましたもんっ」
 言ってしまってからヤバいと口を覆う。もうすっかり遅いのに。それでも忽那さんは嫌な顔をせず、むしろ「そっかぁ、なるほどね」とか言いながらコクコクと頷いて、変わらずにこにこしている。
「僕はね、行き場を失ったお九十九様を一処(ひとところ)に集めて、適切な場所へ導いてさしあげるお仕事をしているんだよ。永ぁあい間ね。それが(スダキ)。早い話が『手放されたお九十九様の一時預かり所』って感じでねぇ」
「なるほど。それでリサイクルショップしてるし、何でも買い取るんですね」
 大正解、と忽那さんは屈託なく笑った。
「ひと昔前は古美術商やったりしてたんだけどねぇ。でもさすがに三〇年四〇年と同じ職種でやってくと怪しいじゃない? だからちょっと前から場所も変えて、リサイクルショップにしてみたんだぁ」
「三〇年、四〇年? 忽那さんてアラサーじゃないんですか?!」
「あー、この見た目? たんに気に入ってるからそのくらいで擬態してるだけだよ。(よわい)は始めの一五〇年くらいは数えてたんだけどぉ、その後よくわかんなくなっちゃったんだよねぃ」
「ま、マジで老齢で擬態だったとは。あ、てことはやっぱり、忽那さん自身がその……よ、妖怪か何か、なんですか?」
「フッフッフ、そうだよぅ。実はね、『妖怪・もったいない』なのさーっ!」
「いや、それは嘘ですね」
「ちぇー、バレちゃったぁ」
 くだらない冗談で冷えてしまった場の空気。忽那さんは気にすることなく「けどまぁ」と声色を戻す。
「人間ではないことはホントだよ。僕が区分されるとしたら、お九十九様とか守護霊様たちの方が人間よりも圧倒的に近いからねぇ」
 そして『にこ』といつものように優しい笑顔を見せる忽那さん。こうしているとわたしとなんら変わりはないのに、本当は人間じゃあないだなんて。
「鞠ちゃんがこの店に働きに来たのも『(スダキ)』の関わりだって言ったら、鞠ちゃんはどう思う?」
 えっ、と小さく漏らして息を呑んだ。身に覚えがないから正直戸惑いしかない。
「鞠ちゃんは就職活動で上手くいかなかった。そしてとても傷付いたんだったね。そういう『人間側に起こった不測』は同時にお九十九様たちの不測にもなってるのね。マイナス同士で惹きあえばプラスになるように、必要としている存在同士を繋いで俗世に還すことを僕はしているのさ」
「それじゃわたしがここに面接しに来たのって、近々この店でわたしが惹かれるお九十九様と出逢うため……ですか?」
「鞠ちゃんだけじゃないよ。お九十九様も、鞠ちゃんのことを必要だと想われるからね」
 だから惹きあうんだよ、と忽那さんは真剣に言った。いつものようにニコニコしているのに、一度も見たことがないほど真剣な雰囲気。
 ぼんやりと忽那さんを眺めていると、困ったように首を傾いで訊ねられた。
「やっぱり、気味悪がらせちゃったね」
「そ、そんなことないです! なんか、呑み込みきれてないだけで」
 忽那さんがしてくれたように、忽那さんにもわたしの気持ちを誤解してほしくないと強く思う。
(スダキ)のこと打ち明けるか躊躇ってくれてたのは、わたしがどう思うかって悩んでくれたからなんですよね? ゆっくり噛み砕いて話してくれるのだって、わたしが怖がらないようにって考えてくれたからじゃないですか」
 一般社会人とちょっと違う不思議な雰囲気も、年齢不明な容姿も、物と話す奇っ怪な行動も、全部に明確な意味があるとわかれば怖いとは思えない。
「そんなふうに悩んでくれる忽那さんは、やっぱり優しいって思いますし、う、嬉しいなって。……変わってるなとは思うけど」
 信じる信じないの域ではないもっと不思議な感覚になるのに、ストンと忽那さんのこれまでの奇行すべてが腑に落ちている。就職活動の失敗が関係しているかなんて図り知れたことではないけれど、悪いことばかりではなかったと言ってもらえたら安心できたことも嘘ではない。
 こうして忽那さんの突飛な話を簡単に信じられてしまうのだって、これまでの雇用関係とか接客対応、それに日々一緒に働く姿を見てきたからこそ。忽那さんが何であったとて、わたしは忽那さんにマイナスな感情は持たずにいる。
 そういう心から溢れる想いや考えを、真摯に、ただ伝えたい。
「そっか。ありがとう、鞠ちゃん」
「いえ、別に……」
 ちょっと恥ずかしくなってきて俯いてレジに目を落としていると、頭頂部を不意にやわやわと撫でられた。
 ブワッと体温が上がって、頭がボンッてなって思わず硬直。こんなの今まで誰ひとりにもされたことがない。ヤバ、絶対顔赤い。
「思ったよりも早いお戻りだったねぇ」
「え?」
 何のことかとソロリソロリ顔を上げれば、忽那さんはわたしの頭からスッと手を離した。途端にくるりと背を向けて、大股の早足で店の入口まで向かっていってしまう。チクショウ、ちょっと惜しいと思ってしまってるのはなぜだ。
「どうも。お待ちしてましたよ、お祖母様の形見のお品物と一緒に」
 扉を引き開けた先に立っていたのは、さっきの不安気なお客だった。息を切らして肩を上下している。
 忽那さんの言うとおりだ。次々に事が予見どおりになっていく。高鳴るようにドキドキと胸が騒ぐ。
 何の取り柄も特徴もないわたしがこうして日々を生き生きと楽しみに過ごせるのは、もしかしなくても『(スダキ)』のチカラで忽那さんと出逢えたからだ。わたしに必要なのは、目に見えていないお九十九様じゃなくて、きっと――。
「お客さまっ、こちらですよね!」
 ふにゃりと頬が緩んだわたしは、テーブルの端に寄せてあったアクセサリーケースをパッと手に取った。そして急いでレジをまわり、忽那さんのもとへ走り向かう。
 優しく笑んでわたしを待っている忽那さんの『不思議』を、しばらくは傍で見ていたいから。




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