不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
一章 不本意な婚約
「ジェニファー、あなたの婚約が決まったそうよ」

休日の午後のティータイム中、伯母から思いがけない宣告を受けジェニファーは言葉を失った。

(私が、婚約?)

突然のことに戸惑うジェニファーなどお構いなしに、伯母のアンナはダンッとテーブルに拳を振り下ろした。
その大きな音に驚き、ジェニファーの体はビクリと跳ねる。

「まったく、ヘルマン()は血も涙もないわね! どうしてよりにもよってクレール家の人間なんかと!」

なおも気が治らないアンナはギリギリと苛立たしげに爪を噛む。
その悪鬼の如き形相にビクビクしながらも、ジェニファーは伯母からの情報を必死に精査する。

相手はクレール家の人間、と伯母は言った。

(まさか、そんなこと……)

ジェニファーの家門たるゼメルザ家とクレール家は三代にわたる政敵だ。
しかも現在クレール家の独身男子は嫡子であるラインハルトただ一人だけ。

ということは、ジェニファーの相手は必然的にラインハルトとなるわけなのだが……二人は顔を合わせれば互いを皮肉り合う犬猿の間柄だ。
そんな相手と婚姻を結ぶだなど、クレール家はいったい何を考えているのだろう。


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