不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
「この婚姻が不本意なのはお互い様だ。だが正式に決まったことを隠す必要もないだろ」
「あら、ようやく不本意と認めましたね。その調子でもっと素直に……っ⁉︎」

その時、轍にでもハマったか馬車が大きく揺れた。
ジェニファーは背中からドンと突き出されるように前のめりに座席から押し出される。

「ジェニファー!」

すぐに力強い腕にガッシリと抱きとめられた。
ホッとしたのも束の間、あろうことかラインハルトに抱き締められ、膝の上に乗せられている現状にジェニファーは混乱して激しく抵抗した。

「やっ! 離してください!」
「待て、暴れるな! 誓って君の名節を汚すようなことはしない」

ジェニファーを落ち着かせるように、ラインハルトは優しく背を撫でる。
すると落ち着きと共に安心感が湧いてきて、ジェニファーはふっと体の力を緩めた。
ラインハルトは幼子をあやすようにトントンと優しくジェニファーの背を叩く。
段々と頭が冷静になって、妙な心地よさと同時に激しい羞恥が込み上げてくる。

「も、もう落ち着いたので離してください」

ラインハルトを押しのけるよう胸を押すがビクともしない。

「ラインハルト・クレール?」

ジェニファーを見上げてくるラインハルトの眼差しが射るように鋭くて、ジェニファーは本能的恐怖を感じた。
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