不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました

五章 過去との邂逅

ふと気づくと、ジェニファーは誰かの膝の上で頭を撫でられていた。
すごく心地よくて、再び微睡の誘惑に引きずられそうになる。

「ねえルナ、わたくしもお前のように自由気ままに生きれたらってよく思うのよ」

ルナとは誰のことだろう。
まさか自分のことだろうか？　
何気なく声の主を見上げた瞬間、稲妻に貫かれたような衝撃が全身を駆け巡った。

（え、私――？）

いや、よく見ると瞳の色が違う。
けれどジェニファーと瓜二つの令嬢が、悲しげな表情でこちらを見下ろしていた。
これはいったいどういうことか。
尋ねようと声を発したのだけれど、口から零れたのは「みゃう」という猫のような鳴き声だった。
思わず己の体をマジマジと見下ろす。目に入るのは柔らかそうなグレーの毛並み。
恐る恐る掌を返すと、赤褐色のぷにぷにの肉球。
これは……どう見ても猫の手だ。

（ま、まさか私、猫になってしまったの!?）