不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました

四阿のベンチに腰掛けながら、ジェニファーはググッと大きく伸びをする。
日差しが柔らかく、頬を撫でる風がそよそよと心地良かった。
そのまま背もたれに体を預けてボンヤリ景色を眺めているうちに、いつの間にかウトウトしてしまっていたらしい。

「ジェニファー・ゼメルザ」
「んん……もう、少し……」
「ふむ……食べさせてほしいのか？」
「食べ……？」

意識が夢現の中、口元に柔らかいものが差し込まれる。
パン、だろうか。甘くて柔らかくてふわっとイーストの香ばしい香りが口の中に広がる。
幸せ気分で薄っすら目を開けると、視界いっぱいにラインハルトの顔。

「ムグっ!?」
「起きたか」

ジェニファーはパンを口に押し込まれて言葉を発することができない。
ラインハルトから手渡された紅茶を慌てて流し込むとゲホゲホとむせてしまった。
そんなジェニファーの背をラインハルトが気遣わしげに撫でる。

「大丈夫か？」
「あ、げほっ！　あなっ、たが驚かせるからっ！」
「気持ちよさそうに寝ていたから起こすのも忍びなくてな」
「だからって何故勝手にパン食べさせてるんですか！」
「試しに口に入れてみたら食べたから」
「条件反射です！　もう、なんてことするんですか！」
「美味そうに食べてたが」
「たしかに……美味しかったです」
「そうか」

ラインハルトがかすかに唇を緩める。
彼のこういう友好的な表情は見慣れないし落ち着かなくなるのでやめて欲しい、とジェニファーは内心ごねつつ目を逸らす。