不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
ジェニファーとしても、心にもない歯の浮くような美辞麗句を並べ立てられるより、わかりやすく率直に気持ちを伝えられたほうが遥かにましだ。
しかもあのラインハルトから嘘でも甘い言葉を囁かれるだなんて……想像しただけで寒気がした。

「それに君は婚約者であり将来のパートナーだ。最低限信頼関係は築いておきたい」

婚約者――父から直接告げられてはいないし、婚約式もまだなので正直実感は湧かない。
でもラインハルトと自分が結婚を……そこまで考え、ふとパンを口に運ぶ手が止まる。
これが通常の結婚であるなら当然その先には肉体的な交わりがあるはずだ。
再びラインハルトを見上げると、彼もパンを頬張りながら不思議そうにこちらを見返してきた。
途端にボンと顔が熱くなる。
無理だ。
ラインハルトとそんなことをするだなんてとても考えられない。
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