不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「君が、選んだんだ」

耳元にねじ込むように囁かれた声音は、どこか苛立ちを孕んでいた。
そこでようやくラインハルトの憤りは、ジェニファーの憂いを誤解したせいかもしれないと思い至る。
でもいまはまだ、その誤解を解くことはできない――
だからジェニファーはただ頷いた。
自分が選んだ、その通りだと。

「ええ、だから……申し訳ないですが、もう少しだけ協力をしてください」
「君は……どこまでお人好しなんだ? 巻き込まれたのは君のほうだろう。なのに何故ここまで……!」

ラインハルトは昂る感情を抑えるよう固く目を閉じると、テーブルの上でぐっと拳を握った。
ラインハルトが何故こんなにも感情を昂らせているのかジェニファーには分からない。
気に障ることを言ってしまったのだろうか……でもそれが何かも分からない以上謝ることもできない。

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