不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「ライン……」

ジェニファーは途方に暮れる。
もう演技など無理だと、ジェニファーを愛するふりなどごめんだと、本音ではそう思っているのだろうか。
ズキリ、と鋭く胸が痛んだ。
演技を超えて少しは近づけたと思っていたけれど、それは独りよがりな勘違いだったのかもしれない。
みるみる顔色を失うジェニファーにハッと我に返ったラインハルトが「すまない」と小さく零した。

「君は何も悪くない、俺自身の気持ちの問題なんだ。俺はただ君に感謝すべきなのに、悪い……」
「いえ、鬱屈を募らせるよりぶつけてもらったほうがずっといいです。色々無理を強いてしまって……私のほうこそごめんなさい」
「無理なんか、していない」
「そうですか?」
「声を荒げたりして悪かった。祖父に知られたらタダでは済まないな」

そこでラインハルトは自嘲的な笑みを浮かべる。

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