不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました

でも今はラインハルトという男を知って、浅からぬ情が芽生えた。
そして両家の確執に繋がる真実にも触れた。
もう無知だった頃のように嫌悪することなどできない。
今仮にラインハルトから演技でもジェニファーは受け入れ難いと告げられたなら――

胸が塞がれるように苦しかった。
曇りそうになる表情を必死に繕い、躊躇いがちにラインハルトの頬に触れると、心を探るように視線が絡み合う。
逸さずにじっと視線を定めれば、陽光に煌めくブルーグレーの瞳が複雑に揺らめいた。

「君と、一度腹を割って話がしたい」
「私も……私もです、ライン」
「今度の休日、時間をもらえないか？　少し郊外なんだが別荘に招待したい」
「……ええ、喜んで」

微笑むと同時に手を握られ、そのまま甲に口付けられた。
週末まで素直に自身の心と向き合って、今度こそラインハルトに本音を打ち明けよう――ジェニファーはそう覚悟を決めた。