不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
六章 虚実が交わるとき
「わあ、綺麗ですね!」

週末、ジェニファーはラインハルトに誘われボートに揺られていた。
今日は湖の対岸にあるコテージに案内したいとのことで、ラインハルトがボートを出してくれたのだ。
ラインハルトはとても慣れているようで漕ぐのが上手い。
あまり揺れることもなく、すいすいと流れるようにボートは進んでいく。

緑豊かな景色を楽しんでいる間に、ボートはあっという間に対岸へ辿り着いていた。
ラインハルトは手慣れた様子でロープを船留めに括り付けると、ジェニファーの手を引いて歩き出した。
今日の目的地であるコテージは、船着き場から十段ほど石階段を登った先にあった。
若干息を切らしているジェニファーを見てラインハルトは「体力がないな」と笑った。

「私、コテージって初めてなんです。とても素敵ですね」

コテージは太い丸太で組み上げられた、木目の美しい立派な造りだった。
自然に溶け込むような佇まいでありながらマメに手が加えられているようで、雑草などはなく、綺麗に敷き詰められた芝の緑が瑞々しい。

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