不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「あ、あのラインハルト・クレール?」
「なんだ」
「結婚、といっても形だけですか?」
「どういうことだ」
「これは離縁前提の白い結婚ではない、ですよね?」

そう言った瞬間、ラインハルトの顔からさあっと表情が消えた。
普段言い合いをしてもここまで冷たい瞳は見たことがなくて、ゾクッと背筋に悪寒が走る。

「残念だなジェニファー・ゼメルザ、俺は白い結婚にするつもりなど毛頭ない。クレール家の後継はゼメルザ家の君に必ず産んでもらう。そうでなければ婚姻の意味がない」

低く凄みを増した声音がゾワゾワと恐怖心を煽る。
どうやらジェニファーはラインハルトの怒りに触れてしまったらしい。
でも何故彼がこれほど怒るのかが分からない。
分からないけれどジェニファーの唇は小さく「ごめんなさい」と紡いでいた。
ラインハルトはふうっと深い溜め息をつくと、ジェニファーから目を逸らした。
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