不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
ジェニファーは少し上体を起こして、揶揄うように笑うラインハルトを見下ろした。

「ライン、ここで演技の必要はありません。今だけでも本来の姿に戻りましょう、互いに」

ラインハルトは何か言いかけた唇を固く引き結ぶと、真っ直ぐジェニファーを見上げた。
湖の底に仄見えた深い藍のようだとジェニファーは思った。
吸い込まれそうなほど美しいブルーグレーだと。

「ジェニー……そんな目で見ないでくれ」

切なげに目を細めながらラインハルトはジェニファーの頬を撫でた。

(そんな目? 私はいったいどんな目でラインハルトを?)

ラインハルトは肘をついて身を起こすと、鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけた。

「自覚なしか? 君は……」

そのまま触れるだけのキスをすると、ラインハルトは伏し目がちにジェニファーの瞳を覗き込んだ。

「口付けを強請るような目で、俺を見てる――」

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