不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「ジェニー、起きたのか」
「ええ、何処へ行ったのかと探してしまいました。釣りをしているのですか?」
「ああ、どうしても君に採れたての魚を食べさせたかったんだが……」

ラインハルトははあっと溜め息を付いた。チラッとバケツを覗くと中は空で、ジェニファーはぷっと吹き出してしまった。

「いつもはこんなことないんだがなぁ……」

困ったように頭をかくラインハルトがなんだか可愛らしくて、ジェニファーはこてっとラインハルトの腕に頭をくっつけた。

「あなたの気の済むまで待ちましょう、時間はたっぷりありますから」
「そうだな」

ラインハルトは上着を脱ぐとジェニファーの肩に被せ、後ろから抱き込むように座り直した。

「こういう時間も良いものですね」
「ああ」

漆黒の夜空に煌めく満天の星々。
眼前には穏やかに凪いだ湖面がチャプチャプと優しい水音をたてている。
少し肌寒いものの、全身に感じるラインハルトの熱が温かい。

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