不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました

けれどそんな真実をアンナが知るはずもなく、親族から卑しい生まれだと蔑まれ続けた伯母もまた、カルス・ゼメルザの身勝手に振り回される被害者だったのだ。

「祖母を喪ったことにより、伯母の憎しみの対象はそのまま私へ移行しました。私を虐げることでしか伯母は心を保つ術がなかったのかもしれません。そして祖父から聞いて全てを知っていた父もまた、伯母に対し強く出ることができなかったようです。あなたのお父様を除いてカルス・ゼメルザの実子は伯母のみですから。父としても本来なら伯母こそが正当な後継者であるとの負い目があったからです」
「心情は理解するがそんなのは詭弁だ。君を虐げていい理由になどなり得ないだろう。もうゼメルザ家へなど戻るな、このまま俺が君を連れて帰る」

全身でラインハルトの憤りを感じ、ジェニファーはそれを嬉しく思っていた。
自分のためにこんなにも憤慨し気遣ってくれているのがほかならぬラインハルトであることを。