不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「私……この婚姻のことをそんな風に考えたこと、ありませんでした」

ラインハルトはじっとジェニファーを見下ろす。
軽蔑されてしまっただろうか……そう考えると更なる羞恥に身の竦む思いがした。

「クレール家は憎むべき敵とばかり教えられてきましたから、正直手を取り合う未来なんて考えたこともありませんでした……」
「ああ、それが普通だろう。だがもし俺の考えに賛同できる部分があるなら、これからこの婚姻のことを前向きに考えてはくれないか?」

貴族の婚姻の多くには利害関係が伴う。
でもラインハルトの語るこの婚姻は、ジェニファーの身には余るほど高尚なものに感じられた。
両親の代でも為し得なかった両家の融和。
ラインハルトと手を取り合うことが将来国をも変えていく力になる――それは思い描いていた理想の夫婦像とはかけ離れているけれど、自分にもできることがある、という使命感のようなものが芽生えて、胸の奥から熱いものが漲ってきた。
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