不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「あなたは……人をその気にさせるのが上手なのですね」
「そうか?」
「ええ、この私ですら少し……ワクワクしてしまいました」
「乗せるとかそんなつもりはなかったんだけどな」

ラインハルトは少し困ったように笑うと、食べかけのパンにかじりついた。
その豪快な食べっぷりは男らしく粗野に見えながらも、不思議と不快な感じはしなかった。
むしろ普段の取りすましている姿より好ましく思っている自分に気づいて驚く。

「……前向きに考えてみます」
「ん?」
「あなたとの結婚はもう決まったことですし、これからのこと、私なりに前向きに考えてみます」
「ああ、ありがとう」
「いえ……お礼を言うのは私のほうです。あなたには色んなことに気付かされました。正直、ちょっと悔しいです」
「悔しい?」
「だって……なんだかまたあなたに負けたような気がして……」
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