不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「あなたって……怖い人ですね」
「怖い? 俺が?」

ラインハルトの問いには答えずに、ジェニファーはパクリとパンにかぶりつく。
なんだかすっかりラインハルトのペースなのが面白くない。
ジェニファーだけが心乱されているようで無性に腹が立つ。

「ジェニファー・ゼメルザ?」
「私の頭の中、昨日からグチャグチャなんです。整理するまで時間がかかりそうなので、変なこと言っても気にしないでください」
「ああ、そうだろうな」
「あなたは至って平気そうですけどね」

ついつい憎まれ口を叩いてしまう。
ジェニファーと違ってラインハルトは、本当に憎たらしいくらい何ひとつ変わらないように見えるものだから。

「まあ、俺は行動を起こした側だから。受け入れる立場のほうが大変だろう」
「ええ、分かってくれているなら結構です」

無神経に無遠慮にジェニファーの心を掻き乱しているのでないならまだ許せる気がした。
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