不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
飲みかけのお茶をぐっと飲み干してジェニファーはラインハルトに向き直る。

「ご馳走様です、ラインハルト・クレール。その……中々有意義な時間だったと思います」

なんといっても大好きなクロワッサンアマンドも食べられたことだし。
ラインハルトはじっとジェニファーの顔を見据えると、指先でジェニファーの唇に触れた。

「な!?」
「パンの屑が」
「く、口で言えばいいじゃないですか!」

慌ててラインハルトの手を払い除けると、ラインハルトは無言のまま薄っすら笑い、ゴミをひとまとめにして立ち上がった。

「あっという間の時間だったな。君とこうして話す時間は存外悪くない。これまで時間を無駄にしてきたな」
「そういう世辞は――」
「本心だ、ジェニファー・ゼメルザ。俺は君と話すこの時間を楽しいと感じた」

真摯な眼差しでジェニファーを見下ろしながら、ラインハルトは当然のように手を差し出してきた。
そしてやっぱりジェニファーの体は自然とその手に手を重ねる。
この時立ち上がりながらジェニファーは何故かラインハルトから目を逸らすことができなかった。
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