不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
(ラインハルト・クレール……これはいったいなんの嫌がらせなの?)

もちろんジェニファーとて貴族間の婚姻に、愛だの恋だの個人的感情が意味を成さないことはよく分かっている。
だが、相手は幼い頃から敵と教え込まれた家門の男だ。
しかもジェニファーとは同年で、常に周囲から比較され続け、何一つ敵わなかった憎たらしい存在なのだ。
そんな男とよもや結婚だなんて考えただけでも薄ら寒い。
ラインハルトだって本来ならジェニファーと結婚など死んでも御免なはずだ。

「正直私も腑に落ちないことが多いけれど、もう決まったことよ。諦めなさいジェニファー」

アンナは深い溜め息と共にこめかみを抑えた。

「……はい」

もう決まったこと――どんなに嫌でも覆せない決定事項、ということか。
婚姻は家同士の利害関係と割り切る覚悟でいたものの、まさかこんな絶望的な気分を味わう相手だとは想定外だった。
ラインハルト・クレール……積極的に顔を合わせたい相手ではないけれど、彼の真意は一度確かめてみなければ――
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