不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「……も」
「ん?」
「私も……悪くなかったと思います」
「そうか」

ラインハルトは柔らかく目を細める。
今度こそジェニファーはそのブルーグレーから目を逸らした。
ジェニファーとて偽りのない本心だった。
ラインハルトとのひと時は――悪くなかった。だからそのことをどう捉えて良いか分からなくて正直戸惑っていた。
幼い頃から刷り込まれた価値観が素直に認めることを許してくれない。
しかも相手は勉学でも口論でも一度たりとも勝てたことのない天敵ラインハルト・クレールだ。
ラインハルトとの間に横たわる最たる問題は、ジェニファー自身の中にあるのだと痛いほど自覚させられた、そんな時間だった。
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