不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
ジェニファーはこれまでこの感情になんら疑問を抱いたことはなかった。
ゼメルザだからクレールを憎むのは当然――そう、それは息をするように当たり前のことだったから。

「物事の表層など高が知れている。お前は姉の言葉を鵜呑みにし、確執の裏に何があるか疑問に思ったことすらないのだな」
「はい……」

思わず俯いてしまう。
底の浅さを指摘されたようで消えたくなるほど恥ずかしかった。
父の言うとおり、ジェニファーはこれまで確執の本質を深く考えたことなどなかった。

「和解したいとラインハルト・クレールは言った。俺自身願っていたことではあったが行動に移すことはできなかった。おそらくクレールの現当主もな。俺達が目を逸らし続けた面倒事に、あの若者は真正面から挑んでいる。まあまだ青いが、あんな気骨のある男はそう居ない。だからお前を嫁にやるんだ、分かってくれるな?」
「分かり、ました……」

父がラインハルトを高く買っていることはよく分かった。
そしてハッキリと教えてはくれないけれど、両家の確執にはまだジェニファーの知らない何かがあるのだ。
いつかそれを知ることになるのだろうか。
もし知ったとき、ジェニファーは何を思うのだろう。
いまだ抜けない棘のように突き刺さるこのわだかまりは、ラインハルトへの感情は果たして――
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