不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました

「ジェニファー……」

ハッと顔を上げると、驚いたように目を見開くラインハルトが目の前に佇んでいた。
今日は運命の婚約式。
早朝から準備に追われていて、あまりの目まぐるしさと疲労とで頭がボンヤリしてしまい、これまでの記憶が曖昧だ。
気づけばジェニファーは神殿の控え室にいて、どうやらラインハルトが様子を見に来たようだった。

「ラインハルト・クレール？」

撫でつけられた髪に黒のフロックコートが普段以上に大人びて見えて、不本意ながら見惚れてしまった。
認めたくはないけれど、長身でスタイルの良いラインハルトは正装が憎たらしいくらい似合っている。
なんだか見知らぬ男性を前にするようでジェニファーは落ち着かない。
そんなジェニファーの心中などお構いなしに、ラインハルトはなおも無言のままじっとジェニファーを見下ろしていた。

「そんなにジロジロ見ないでください」

ぷいっと顔を背けると、ラインハルトはようやく口を開いた。

「……見違えた」
「え？」
「よく似合っている、ジェニファー・ゼメルザ」