不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
ジェニファーの頭は真っ白になる。

(いま私、ラインハルトにキスされているの? どうして?)

状況が理解できないまま固まっているジェニファーに、ラインハルトは二度三度と啄むようにキスをした。
そうして鼻先が触れる程の距離でジェニファーの瞳を真っ直ぐに捉える。

「な、なに、を……」
「君は俺の妻になるんだ、なんの問題もないだろ」
「ラインハルト・クレール!?」
「ああ、そろそろその呼び方も改めてもらおう。君ももうすぐクレール姓になるんだから」
「そ、それは……そう、ですけど……」

ジェニファーは歯切れ悪く口ごもる。
またしてもラインハルトのペースだ。
どうして自分はこうも容易く心を乱されてしまうのだろう。

「ずっとあなたのペースですね。なんだか悔しいです」
「ジェニファー」
「誤解しないでください、私の気持ちがどうあろうとこの婚姻から逃げたりはしませんから」
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