不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
ラインハルトはジェニファーの手を取ると指先に唇を押しあてた。

「君のことは妻として尊重し、必ず大切にすると約束する。俺自身不幸な結婚になどしたくはない」

ラインハルトの真摯な眼差しに視線が囚われる。
責任感の強いラインハルトはきっと言葉どおり妻としてジェニファーを大切にしてくれるのだろう。
そこに愛情はなくても、彼の言葉は素直に嬉しかった。
これまで刷り込まれた価値観がいまはまだ邪魔をするけれど、ジェニファー自身少しずつ歩み寄る努力をしよう――心からそう思えた。

「私も……努力します。すぐには無理でも、私だって不幸な結婚にはしたくありませんから」
「ああ、いまはそれが聞けただけで充分だ」

ラインハルトが薄っすら笑むから、つられてジェニファーも微笑んでいた。
きっと複雑な気持ちの入り混じった、ぎこちないものだっただろうけれど。

「ジェニファー……」

ラインハルトの手が腰に回ってぐっと引き寄せられた。
再びラインハルトの顔が近くなった瞬間、バタンと扉の開く音がした。
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