不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
自室に戻ってソファに座りぼんやり物思いに耽っていると、アンナから話を聞いたらしい弟のテオドールがひょいと顔をのぞかせた。

「姉さん、ひどい顔色ですね」
「ええ、まあ……」

苦笑するジェニファーの対面に腰を下ろし、テオドールは憂い気に溜め息を零す。

「話は聞きましたよ」
「そう……テオはどう思う?」
「率直に言って、ゼメルザ家次期当主としては賛同せざるを得ません」

ジェニファーとよく似たエメラルドグリーンの瞳に正面から射抜かれる。
テオドールは冷徹なほど合理的で聡明な少年だ。
見た目はやや線が細く、軍務より文官が向いてそうではあるが、文武両道で次期当主としては非の打ち所がない。
ジェニファーはそんな二つ年下の弟を心から尊敬し、絶対の信頼を寄せていた。
そのテオドールがそう言い切るのなら、ジェニファーに否やなど言えるはずがない。

「ですが……弟としては複雑な思いがあります。姉さんはこれから敵陣で孤軍奮闘を強いられるわけですから」
「そう、ね」

政敵であるクレール家ではどんな仕打ちが待っているのか、いまは考えたくもない。
でも、テオドールが弟としてジェニファー()を思い心を痛めていることはひしひしと伝わってきた。
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