不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「ジェニー、準備のほうはどう……」

アンナがポカンと口を開けたまま扉口で固まる。
ジェニファーはハッと我に返って慌ててラインハルトから離れた。
一方ラインハルトは、何事もなかったかのように落ち着き払ってアンナに一礼した。

「ゼメルザ公爵の姉君でいらっしゃいますね。お初にお目にかかります、ラインハルト・クレールと申します」

ラインハルトの優雅な所作と胡散臭いくらい爽やかな微笑とに、アンナはクレール家に抱く悪感情すら忘れてポーッと見惚れているようだった。

(あの伯母を笑顔で黙らせるなんて……ラインハルト・クレール、なんて恐ろしい男……)

ジェニファーはごほんと咳払いしつつ伯母に向き直る。

「伯母様、準備が整ったのでちょうど聖堂へ向かうところでした」
「あ、ああそうだったの。クレール公子はジェニファーを心配して見に来てくださったのかしら?」
「はい、ジェニファー嬢の不安を少しでも取り除ければと。事前打ち合わせも兼ねて参りました」

この男、よくもまあ……とジェニファーは思わず半眼になる。

「まあなんて気の利く! あら? ジェニーそのネックレスは?」
「……クレール公子から頂きました」
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