不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
「唯一の救いはラインハルト・クレール公子に悪い噂を聞かないことでしょうか。ただ……」
「ただ?」
「いえ、以前サロンで耳にしたことがあるんです。彼には恋人がいると」
「まあ……それが本当なら彼は感情より利を優先したのね」

貴族には良くある話だし、別に驚きはしない。
でも、とジェニファーは首を捻る。
ラインハルトの話題は学園やお茶会でよく耳にするものの、そのような女性がいるという話は初耳だ。
余程知られたくない「秘めたる恋」なのだろうか。

「個人的付き合いはないので僕自身ラインハルト・クレール公子がどのような人物かは知りませんが、婚姻する以上姉さんを蔑ろにすることだけは決して許しません」
「ありがとうテオ、その気持だけで充分よ。私なら大丈夫、どんな環境だろうと上手くやってみせるから」

安心させるようにぐっと拳を握って微笑むと、テオドールは複雑そうに眉を曇らせた。
< 5 / 13 >

この作品をシェア

pagetop