不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
姉としてテオドールに強がってはみたものの、ジェニファーは様々な感情に気持ちが昂って、その夜はろくに眠ることができなかった。
そのため翌朝は眠気でぼんやりしたまま玄関ホールへ向かうことになったのだが……ジェニファーはそこで目の当たりにしているものが信じられず、ガンと頭を殴られたような衝撃に呆然と立ち尽くす。

「ラ、ラインハルト・クレール……いったい何をしにここへ……!?」
「おはよう、ジェニファー・ゼメルザ。色々話したいこともあるだろ? 学園まで一緒に行こう」

輝くような金髪をサラリと風に流し、ブルーグレーの瞳を煩わしげに眇めつつも、ラインハルトはいたって紳士的にジェニファーに手を差し出した。
本音は撥ねつけたいのに、体は自然と手を重ねるように動く。
この時ばかりは染み付いた習慣を呪いたくなった。
そのままラインハルトの馬車までエスコートされ、向かい合うよう座らされる。
密閉空間に犬猿の人物と真正面から対峙する状況だ、なんとか平常心を心掛けてはいても、緊張と警戒心とでジェニファーの指先は震え出しそうだった。
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