不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました

「ご自身の胸にお聞きください。僕はあくまでもジェニファー嬢の味方なので、彼女が傷つくようなことは許せないだけです」

ケビンはたしかに笑っているのに、ラインハルトを見る目の冷ややかさにジェニファーは戸惑う。
彼と親しく言葉を交わすのは今日が初めてなのに、何故ここまで肩入れをしてくれるのだろう。

「僕達は行くところがあるのでこちらで失礼しますよ。さあジェニファー行こう」
「あっ……！」

有無を言わさず手を取られ、ジェニファーは引っ張られるようにしてケビンのあとに続く。
首だけ振り返ると、こちらを凝視するラインハルトに腕を絡ませるカヤの姿が目に入った。
不快な感情から目を逸らすように、ジェニファーは正面に向き直り毅然と前へ歩き出す。
ラインハルトはいざ知らず、自分には後ろめたいことなど何一つない。
背中に痛いほどの視線を感じながら、ジェニファーはすっと背筋を伸ばし、ケビンの腕を握った。
そんなジェニファーの表情を見て、ケビンは満足そうに笑った。