不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
「あ、あなたは……正気なのですか」
「どういう意味だ?」
「私はゼメルザで、あなたはクレール。両家の確執は街の子ども達だって知っています」
「ああ、そうだな」
「まさか……私を揶揄っているのですか?」
「いや、そんな趣味はない」

ラインハルトの顔を見つめると、ブルーグレーの瞳は至って真摯にジェニファーを見返してきた。
いつものように皮肉る色はどこにも見当たらなくて、ジェニファーは訝しげに眉を顰める。

「本気で私と結婚をする気ですか?」
「当然だ。俺が冗談でこんなことをする人間だとでも?」
「それは……」

ぐっと言葉に詰まる。
ラインハルトは品行方正で多方面から人望も厚い絵に描いたような優等生だ。
彼の本当の顔など知らないけれど、いくら険悪な間柄とはいえ、ジェニファーを陥れるためこんなことをする卑劣な人間だとは思えない。
敵ながらそこだけはなんとなく信頼できる気はした。

「ラインハルト・クレール、私達はあんなに険悪だったではないですか。あなただって私にいい感情は抱いていないはずです。長い目で
見ても、水と油が混ざり合うとは到底思えません」

ラインハルトは驚いたように目を見開いた。
貴族でありながら、ジェニファーが感情論を出してくるとは思わなかったのだろう。
そのまま睨むように二人は見つめ合う。
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