不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました

「あの、すみません……色々とお気遣い頂いて……」

ケビンが露店で買い求めたジュースを受け取りながら、ジェニファーはペコリと頭を下げた。

「クレール公子と婚約したんだったよね、余計なことしちゃったかな？」
「いえ、後ろ暗いことなんて何ひとつないんですから、むしろスッキリしました」
「そう？　ならよかった」

屈託なく笑うケビンに導かれ、並んでベンチに腰を下ろす。

「あのカヤって女はただの侍女じゃなさそうだったしさ、君を見る目がすごく不快だったから、一刻も早く君をあの場から連れ出したかったんだ」
「私も……同じように感じました。ラインハルトに恋人がいるという噂は知っていたんですけど、実際目の当たりにするとあまり気分の良いものではないですね」

苦笑するジェニファーにケビンは痛ましい目を向ける。