不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました

「ラインハルトとは単なる政略結婚ですし、彼は私相手にやきもきなんてしませんよ」
「そうかな？　そう思うなら試してみれば良い」
「試す？」
「彼は僕達の仲を勘ぐってるはずだ。その誤解を誤解のままにしておくんだ」

ケビンは悪戯を思いついた子どものように無邪気に笑う。

「君の不名誉になるようなことは決してしないよ。敢えて彼の誤解を解かない、それだけでいいんだ」
「でもそれは……ケビン様の不名誉にはなりませんか？」
「なるはずないよ。なんなら本当の恋人になっちゃう？」

ケビンの冗談めかした口調にジェニファーは思わず吹き出してしまう。

「分かりました、誤解は解かないままにしておきます。ラインハルトだって恋人がいるんですから、文句は言えませんよね」
「あれ、大事なところ流されちゃったなあ。まあいいや、ジェニファーまたデートしようね」

返事をする前に額に口付けられてジェニファーは言葉を失う。
そんなジェニファーの頭を優しく撫でるとケビンは馬車に乗り込み、笑顔で手を振りながら去って行った。
茫然とその姿を見送りながら、ジェニファーは額を押さえてポツリと呟く。

「恋人じゃなくても、おでこにキスってするもの？」