不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「やはり……気分を害したよな」
「いえ、良いんです。あなたに恋人がいるという噂は耳にしていましたから」

ラインハルトはハッとしたように目を見開き、ギリと唇を噛み締めた。

「……恋人、ね」

自嘲的な声音にただならぬ気配を感じて、ジェニファーはおずおずとラインハルトを見上げる。

「ラインハルト?」

ラインハルトはその視線から逃れるように俯くと両手で顔を覆った。
いよいよ様子がおかしい。
ジェニファーは手を伸ばしてラインハルトの肩に触れた。

「大丈夫ですか? どこか具合でも……あっ!」

ラインハルトはジェニファーの手を掴んで引き寄せ、自身の隣に座らせた。
そしてジェニファーの手を掴んだまま、低く呻くように声を絞り出した。

「カヤは……クレール家の犠牲者なんだ」
「犠牲者?」

俯いているので表情は伺えないものの、ジェニファーを掴むラインハルトの手は僅かに震えていた。
ジェニファーは咄嗟に反対の手でラインハルトの手を握る。
これから話そうとしていることが彼にとって辛い『なにか』であることが察せられたからだ。
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