不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「辛いことなら無理に話さなくても良いのですよ」
「いや、君には話しておくべきだ。何も知らされないままでは、この先もいたずらに不快な思いをさせてしまう」
「ライン……」

なんて義理堅い男だろう。
これだけ苦しみながらも、彼は妻として大切にすると言ったあの言葉を律儀に守ろうとしている。
その頑なまでの真摯さにジェニファーはひどく心を打たれた。

「カヤの父親はクレール家の騎士だったんだ。だが、視察中野盗に襲われた父を守って殉職した。カヤの母親は俺の乳母で、彼女は俺の……俺の愚かさのせいで……亡くなった……」

震えるラインハルトの手を強く握る。今なお彼を苦しめる罪の意識が、ジェニファーにも痛いほど伝わってきた。

「ラインハルト、お二人の事情は大体わかりました。だからもう……」
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