不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「全てをクレール家に奪われたカヤは俺に依存している。決して愛や恋などという生やさしい感情ではない。このままでいけないことは分かっているんだ。だが俺は……どうしていいか分からない。どうすれば彼女を救えるのか、もう……」

ラインハルトは自らの意思で、誰にも触れられたくないであろう心の傷を曝け出している。
これが未来の妻に対する誠意なのか、ジェニファー自身を信じてのことなのかは分からないけれど、ジェニファーは雷に打たれたような衝撃を受けていた。
同時に身に迫るようなラインハルトの苦しみに、ぶわりと涙が込み上げて溢れそうになる。
どうにかしてあげたい――当たり前のようにそう思った。
目の前でこんなにも苦しんでいる人を放っては置けないと。
ジェニファーは項垂れるラインハルトの背を包むように抱き締めた。

「ジェニファー?」
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