不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「ラインハルト、あなたはカヤさんに何を望みますか?」
「俺から離れ自立し……幸せになってほしい」
「自立……」

ラインハルトからの自立ということは、カヤに彼を諦めさせることが必要になる。
ジェニファーは恋などしたことはないけれど、仮に好きな人がいたとして、その人を諦めるにはどんな状況が考えられるかと必死に想像を巡らせる。

「ラインハルト、改めて聞きますが女性としてカヤさんを愛してはいないのですね?」
「ずっと一緒に育って妹のように思ってきた。異性として見たことは一度もない」
「そうですか……その、あなたに恋人などは居ないのですか?」
「いない。常に側にはカヤが居たし、そんな心の余裕もなかった」

困ったなとジェニファーは渋面する。
合理性を突き詰めると、甚だ不本意な提案をしなければならなくなる。
でも――ラインハルトを救いたい、その気持ちに偽りはない。
だからジェニファーは躊躇いがちに口を開いた。
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