不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人になりました
「いずれ祖父に会うこともあるだろう。その時直接訪ねるといい」
「そう、ですか」

腑に落ちないものを感じながらも、いまは答える気のないラインハルトを前にジェニファーは引き下がるしかない。

「ほかに聞きたいことは?」

あくまで事務的に淡々と処理しようとするラインハルトの姿勢に、ジェニファーは段々と腹が立ってきた。
テオドールの情報が真実ならば、ラインハルトには別に思い合う恋人がいるはずなのに、よくもこんな機械的に話を進められるものだ。
その女性のことをジェニファーは知らないものの、無理矢理引き裂かれた相手女性の心情を思うと心が痛む。
良くも悪くも貴族らしいラインハルトの姿勢が、今のジェニファーには甚だ不快だった。

「いくら前当主の命とはいえ、あなた自身本当に納得しているのですか? よく冷静になって考えてください。私がこれまでどれだけあなたに酷い言葉を投げつけ侮辱してきたか」

ラインハルトは顎に手を当て思案する。
きっとジェニファーから受けた数々の無礼な発言を思い返しているのだろう。
どれだけ努力しても勝てない、難攻不落の要塞のようなラインハルトが腹立たしくて、ジェニファーは会えば嫌味や皮肉を投げつけたものだ。
今だって思い出せば悔しいし憎たらしいしで頭がどうにかなってしまいそうだ。こんな男と結婚なんて正直なところ冗談ではない。
< 9 / 13 >

この作品をシェア

pagetop