不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
屋敷に戻って自室で読書に耽っていると、突然テオドールが訪ねてきた。

「まあテオ、ゆっくり話すのは久しぶりね。改まってどうかしたの?」

テオドールは無言のままソファに腰掛け、指を組み合わせるとその上に顎を乗せた。
そしてじっと何かを探るようにジェニファーを凝視する。
その視線の鋭さにジェニファーは内心たじろぐ。

「テオ?」
「近頃すごい噂ですね、姉さんとラインハルト・クレール公子」

ああそのことか、とジェニファーは表情を緩める。

「そう、あなたの耳にも届いているのね。それがどうか――」
「婚約者と仲睦まじいことは弟としても喜ばしいことです。ですが、どうも腑に落ちません」

内心ドキリとしながらジェニファーは必死に平静を装う。

「まあ、何が腑に落ちないのかしら?」

テオドールはこめかみを押さえながら、固く目を閉じた。

「非常に作為的なものを感じます。まるで噂を広めてくれと言わんばかりに。さすがにその意図までは分かりかねますが」

テオドールの的確な情報分析力に、ジェニファーは指先が震え出しそうなほど驚愕した。
我が弟ながら敵に回したら恐ろしい男だ。
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