不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
「事情は分かりましたが……」
「テオ?」
「いえ……あまり演技にのめり込みすぎないでください。姉さんは情に脆いところがあるから」

テオドールの言葉にジェニファーは内心ドキリとする。

「心配してくれてるのよね、ありがとう」
「別に……身内がクレールにいいように利用されるのは気分が悪いだけです」

照れたのかムッと膨れるテオドールに年相応の幼さを感じてジェニファーは手を伸ばし、よしよしと宥めるように頭を撫でた。

「あなたはいつまでも私の可愛いたった一人の弟よ」

にっこり微笑むジェニファーに、テオドールは頬を赤らめ俯いた。
幼い頃から手のかからない弟だったけれど、思い返せば彼が心から気を許し、甘えられる存在はジェニファーただ一人だけだった。

だからいつだってジェニファーのことになると思考が過敏になってしまうのだろう。
そんな弟が堪らなく不憫で愛おしくて、思わず抱き締めてしまうジェニファーなのだった。
< 92 / 247 >

この作品をシェア

pagetop