不本意ながら犬猿の婚約者と偽りの恋人を演じることになりました
生前祖父母はとても睦まじかったと聞く。
政略結婚ではとても珍しいことだし、そんな二人に憧れていた幼い日々がいまは遠く感じる。

「ミリーお願い、今日はうんと綺麗にして頂戴」

値踏みするようなカヤの視線を思い出して、ジェニファーは鏡に映る自身と対峙した。
怒りとも違う、これは苦しいくらいの劣等感だ。
幼い頃から伯母に醜いと刷り込まれたジェニファーは、どうしても自分の容姿を肯定することができない。
それでも今日はなんとしても美しく見せる必要があった。
カヤをラインハルトから引き離し自立させるための一歩として。

「やはり恋する乙女は変わりますね! どんとお任せください、腕によりをかけますので……!」

こういうときのミリーはなんとも頼もしい。
ジェニファーは全てを託し、ゆっくりと目を閉じた。
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