キャンバスと五線譜
誰もいないのに託つけて、足を踏み入れた美術室。

そういえばヤツは、絵画科だって言ってたな。

ヤツはここで、授業を受けるのか。


その時、美術室の後ろに、一枚の大きな絵画を見つけた。

深い深い、青に染まったキャンバス。


これは海なんだろうか。

それとも、空なんだろうか。


その絵に見とれていると、後ろから音がして、慌てて振り返った。

そこには、女の人が一人、立っていた。

初めて見る顔だった。

制服を着ていないと言う事は、先生なんだろうか。


「見かけない顔ね。絵画科の生徒さんじゃないでしょ?」

その人は、笑顔で聞いてきた。

「はい、ピアノ科です。」

「そう、私は講師の早川よ。あなたは?」

「僕は、」

名前を言いかけて、一瞬迷った。

秋元と言ったら、学長の息子だとばれるかもしれない。

「……祐輔です。」

あの人は不思議な顔をしたけれど、すぐに、「祐輔君ね。」と微笑んでくれた。
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