キャンバスと五線譜
音楽室に入ると、どうやら生徒は僕達だけのようだった。

早速奈々瀬は、一番手前にあるピアノの蓋を開け、楽譜を置いた。

「今日は何を弾くんだ?」

そう聞きながら、彼女の置いた楽譜を見ると、

― Kiss in the sky ―

と書いてあった。


「これ、誰の曲?」

奈々瀬に聞くと、顔を真っ赤にしていた。

「私が作ったの。」

「奈々瀬が?」

意外だった。

奈々瀬は与えられた曲を、黙々と引き続ける人間だと思っていたから。

僕は楽譜を手に取ってみた。

奈々瀬らしいっていえば奈々瀬らしい。

そして途中で、先生に言われた言葉を思い出した。


“あなたが海だと思えば海になり、空だと思えば空になる“


それは音楽にも、通用することなんだろうか。

僕は知らないうちに、鍵盤に指を乗せ、奈々瀬の旋律を奏でた。

奈々瀬はじっと僕の音を聞いていた。
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