キャンバスと五線譜
今まで適当に弾いていた僕からは、想像もできなかったんだろう。

「祐輔くん。」

先生は笑顔になっていた。

「あなたの音楽って不思議ね。」

「不思議?」

「……暖かくて、心に伝わる音よ。作った人の気持ちがそのまま音に乗ってやってくるみたい。」


僕はどんな言葉よりも、ピアノを弾くことで、先生の笑顔を見れた事が、何よりも嬉しかった。


その日家に帰ると、途中で奈々瀬が待っていた。

「今日は、ピアノ弾かないのか?」

僕はそう言って、奈々瀬の前を通り過ぎた。

「どうして今日、早川先生にピアノ弾いてたの?」

なんだ。

その事を気にしてんのか。

「気まぐれ。」

「え?」

「なんとなく、弾きたかっただけ。」

いつもはそんな曖昧な答えでも、理解してくれた奈々瀬だが、この時ばかりは違った。
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