キャンバスと五線譜
「あれ、今日は祐輔が練習する日か。」

ヤツは少し、がっかりしていた。

「いや、僕はたまたま通りかかっただけだから。」

「そうか。」

ヤツは扉を閉めた。

「たまたま通りかかったって、祐輔も奈々瀬ちゃんのピアノ聴きに来たのか?」

祐輔、も?

「奈々瀬だったら、今日は来ないと思うぜ。」

ヤツはじっと僕を見た。

「それは残念だったな。」

ヤツは、奈々瀬に会いに来たのか。

「祐輔はやけに、奈々瀬ちゃんの事に詳しいな。」

「付き合いが長いんだよ。奈々瀬とは。」

「それだけ?」

「それだけ。」

ヤツの疑いの目は、見てて面白かった。

「想は奈々瀬に、会いに来たんだろ?」

からかいついでに、言ってやった。

「いや、彼女のピアノが聴きたくて。」

簡単には認めないか。

「彼女のピアノを聴くと、元気が出るんだ。」

「ホームシックか?想。」

「そうかもな。」



< 43 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop