キャンバスと五線譜
階段を昇りながら、ヤツは僕に話しかけてきた。

「ああ。」

「へえ。何科?」

「僕はピアノ科。」

「へえ、すごいんだなあ。」

ピアノ科に所属しているってだけで、すごいって言われたのは初めてだ。

はっきり言って、僕はピアノ以外の楽器を弾けない。

「君は何科?」

逆にヤツに聞いた。

「僕?」

ヤツはしばらく考えていた。

「まだ、何科なのか分からないんだ。」


僕は階段の途中で思わず立ち止まり、後ろにいるヤツを見た。

「何科なのか、分からない?」

「うん。」

そんなヤツ初めてだ。

「どうやってこの学園に来た?」

「どうやってって、学長に誘われて。」

父に?

あの父に誘われた?


「部屋まだ?」

僕がこんなに驚いているって言うのに、ヤツはケロッとしてる。

「ああ、もう少し………」

僕は心の中に、モヤッとしたものを抱えながら、ヤツを新しい部屋に案内した。
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