キャンバスと五線譜
駅のホームに着いて、電車を待っていた。

もう少しで電車が来る案内が鳴り、荷物を持って立ち上がった時だった。

僕の手を掴んだ人がいた。

振り返るとそこには、

「早川先生?」

息を切らしながら、必死に僕の手を握る先生の姿があった。


「よかった。間に合ったのね。」

「どうして、ここに?」

「高原君が教えてくれたのよ。」

「想が?」

あいつ、いつの間に。


「一言、お礼を言いたくて。」

「お礼だなんて……」

「あの日、祐輔君は私の事、好きだって言ってくれたでしょう?」

先生は笑ってくれた。

「私はあの言葉で、また人生をやり直すことができたのよ。」


そして発車の合図が鳴る。

「乗って。」

先生は僕を、電車の中に押し込んだ。

そして振り向く僕に、キスをくれたんだ。
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