乙女要素のある死にゲーに転移してしまった件
2.オープンワールドは難しい
チュートリアルを終わらせて、魔法の出し方や武器の持ち替えなどを覚えた私は平原で道に迷っていた。
マップはどこかで拾う仕様のようで、手元にあるマップは真っ暗だ。自分が立っている場所を示すピンアイコンしか見えない。
「まぁ、最初はそんなもんだよね……」
マップを閉じ、なんとなくで前に進んでいくと、小さな砦が見えてきた。
壁は壊されており草木が生い茂っていることから、人がいても賊くらいだろう。
チュートリアル報酬で貰った双眼鏡で拡大してみるが、人の影はない。
もし賊が陣取っているのであれば、1人くらい砦を巡回してそうなものだが……。
「あの砦が気になりますか?」
「! ……誰、ですか」
背後から突然話しかけられ、思わず距離を取る。
そこにいたのはローブの男。顔は仮面をつけているため確認できない。とりあえず怪しさ全開なのは間違いない。
「突然失礼しました。私は救世主様の召使のようなものです」
可愛げもない召使がいる設定なんかあったか? と思いつつも便利であるのなら良いかと思い気にしないことにする。
「……それで、何か用?」
「あの砦に何かあると考えているのでしょう? マップのアップグレードは私の役目です。宝箱や敵の場所をミニマップに表示できる機能をお付けしたいと思い、お声がけした次第でございます」
ローブの男は早口でそう言いながらマップを開き、なぞるように指を動かす。
「完成です」と言うと同時にマップが光り、緑アイコンが現れた。
私の隣に緑アイコンが出ているが、位置からしてこのローブの男だろう。
そして気になっていた砦には緑のアイコンと宝箱の形のアイコンがある。
「砦にいるのは敵ではないってことですか?」
「そうですね。……あ、因みになんですが、今後のアップグレードはお金と素材が必要になりますのでご留意ください」
「最初だからタダってことね。了解」
マップを開くと右下にアップグレードするための金額や素材が書かれている。しかしどこでまた会えるのかは記載がない。
「会えるのは運?」
「私はどこにでもある古屋の外に立っています。近くまで来ていただければこちらからお声がけいたしますので見つからない。ということはないかと思いますよ」
「そっか。ありがとうございます」
「とんでもございません。陰ながら応援しております。では」
そう言って一瞬で目の前から召使と名乗った男は消えた。
――マップの表示から、砦にいるのは敵ではないようだが、誰だろう。
考えられるのは、商人か攻略対象であるイケメンのうちの誰か。
どちらにせよ何かしら良いことがあるかもしれない。そう思って砦の内へ足を踏み入れる。
その瞬間剣が目の前を掠め、慌てて後ろに回避をした。
敵じゃないはずでは……。
「えっと……こんにちは?」
恐る恐る顔を覗かせると、そこには傷だらけの金髪碧眼の男がいた。確か攻略対象の中でも1番目立っていたキャラクターだ。メインヒーローということだろう。
殺意はないようだが、警戒心は剥き出しの男。
こんな時でも、出会いのスチルとしてありそうだなーなどと考えるのは私くらいだろう。
「……僕の剣を避けるとは、腕の立つ人のようだ」
「んー、まぁそう、なのかな」
実際は攻撃が降ってくる時に合図音が鳴り、そのタイミングで避けただけなのだが。
ゲームの仕様だろうから、この世界の人々にはわからないか。
「……どうやら魔族の類ではないようですね。先程の無礼、お許しください」
私を上から下まで観察した後、敵ではないと判断したようで、男は深々と頭を下げた。
「こちらこそ、突然ごめんなさい。こんな所ですから、警戒するのもおかしくないかと」
あっけらかんとしている私を見て、腑に落ちない顔をしている男は息を大きく吐きその場に座り込んだ。
「……すみません。少し休ませていただきますね」
「ああ、はい。お構いなく」
近くに宝箱があったなと、男を無視して辺りを見渡す。ミニマップを見たところすぐ近くのようだが、見当たらない。
上か下か……そう思い上を見たが特にギミックはなさそうだ。ならば地下だろうと地下へと続く階段を探す。
「階段あった」
きっと宝箱はこの下だろうとさっさと降りようとしたところで、慌てて駆け寄ってきた男に腕を掴まれ止まる。
「危ないですよ!」
「わぁ、びっくりした。大丈夫ですよ。敵もいなさそうだし」
ミニマップでは隠れている敵が見えない場合も考えられるが、死にゲーだし問題はないだろうと考えている。
死んでもまたやり直せば良い。死にゲーとはそういうものだ。
だが、この男にとってはそうも言っていられないのだろう。表情から必死さが窺える。
走ってきたせいか、男は咳き込み、荒い息を吐き出しながらゆっくりとその場に膝をついた。
「……そうだ、これどうぞ。大概の怪我は治るんじゃないですかね」
常備品の回復薬を手渡すと、男は謝罪をしつつもゆっくりとそれを飲み干した。
すると、傷口は塞がり荒かった息も整い、男は鳩が豆鉄砲を食ったようだった。
「一瞬にして体が軽くなった……?」
「効いてよかったですね。では――」
「ま、待ってください。貴女は一体何者ですか? 僕の攻撃を避けれるほどの身体能力。そして一瞬で傷を癒せる回復薬を持っているだなんて……」
困惑の色を浮かべる男に、ゲーム世界なのにそこら辺ツッコミが入るのかと疑問に思いつつも口を開く。
「神から言われてこの世界を救いにきた者です。……なんて」
「なんと……。貴女が今回の救世主様なのですね。それは心強い」
「……え??」
今この人"今回の"て言った?
マップはどこかで拾う仕様のようで、手元にあるマップは真っ暗だ。自分が立っている場所を示すピンアイコンしか見えない。
「まぁ、最初はそんなもんだよね……」
マップを閉じ、なんとなくで前に進んでいくと、小さな砦が見えてきた。
壁は壊されており草木が生い茂っていることから、人がいても賊くらいだろう。
チュートリアル報酬で貰った双眼鏡で拡大してみるが、人の影はない。
もし賊が陣取っているのであれば、1人くらい砦を巡回してそうなものだが……。
「あの砦が気になりますか?」
「! ……誰、ですか」
背後から突然話しかけられ、思わず距離を取る。
そこにいたのはローブの男。顔は仮面をつけているため確認できない。とりあえず怪しさ全開なのは間違いない。
「突然失礼しました。私は救世主様の召使のようなものです」
可愛げもない召使がいる設定なんかあったか? と思いつつも便利であるのなら良いかと思い気にしないことにする。
「……それで、何か用?」
「あの砦に何かあると考えているのでしょう? マップのアップグレードは私の役目です。宝箱や敵の場所をミニマップに表示できる機能をお付けしたいと思い、お声がけした次第でございます」
ローブの男は早口でそう言いながらマップを開き、なぞるように指を動かす。
「完成です」と言うと同時にマップが光り、緑アイコンが現れた。
私の隣に緑アイコンが出ているが、位置からしてこのローブの男だろう。
そして気になっていた砦には緑のアイコンと宝箱の形のアイコンがある。
「砦にいるのは敵ではないってことですか?」
「そうですね。……あ、因みになんですが、今後のアップグレードはお金と素材が必要になりますのでご留意ください」
「最初だからタダってことね。了解」
マップを開くと右下にアップグレードするための金額や素材が書かれている。しかしどこでまた会えるのかは記載がない。
「会えるのは運?」
「私はどこにでもある古屋の外に立っています。近くまで来ていただければこちらからお声がけいたしますので見つからない。ということはないかと思いますよ」
「そっか。ありがとうございます」
「とんでもございません。陰ながら応援しております。では」
そう言って一瞬で目の前から召使と名乗った男は消えた。
――マップの表示から、砦にいるのは敵ではないようだが、誰だろう。
考えられるのは、商人か攻略対象であるイケメンのうちの誰か。
どちらにせよ何かしら良いことがあるかもしれない。そう思って砦の内へ足を踏み入れる。
その瞬間剣が目の前を掠め、慌てて後ろに回避をした。
敵じゃないはずでは……。
「えっと……こんにちは?」
恐る恐る顔を覗かせると、そこには傷だらけの金髪碧眼の男がいた。確か攻略対象の中でも1番目立っていたキャラクターだ。メインヒーローということだろう。
殺意はないようだが、警戒心は剥き出しの男。
こんな時でも、出会いのスチルとしてありそうだなーなどと考えるのは私くらいだろう。
「……僕の剣を避けるとは、腕の立つ人のようだ」
「んー、まぁそう、なのかな」
実際は攻撃が降ってくる時に合図音が鳴り、そのタイミングで避けただけなのだが。
ゲームの仕様だろうから、この世界の人々にはわからないか。
「……どうやら魔族の類ではないようですね。先程の無礼、お許しください」
私を上から下まで観察した後、敵ではないと判断したようで、男は深々と頭を下げた。
「こちらこそ、突然ごめんなさい。こんな所ですから、警戒するのもおかしくないかと」
あっけらかんとしている私を見て、腑に落ちない顔をしている男は息を大きく吐きその場に座り込んだ。
「……すみません。少し休ませていただきますね」
「ああ、はい。お構いなく」
近くに宝箱があったなと、男を無視して辺りを見渡す。ミニマップを見たところすぐ近くのようだが、見当たらない。
上か下か……そう思い上を見たが特にギミックはなさそうだ。ならば地下だろうと地下へと続く階段を探す。
「階段あった」
きっと宝箱はこの下だろうとさっさと降りようとしたところで、慌てて駆け寄ってきた男に腕を掴まれ止まる。
「危ないですよ!」
「わぁ、びっくりした。大丈夫ですよ。敵もいなさそうだし」
ミニマップでは隠れている敵が見えない場合も考えられるが、死にゲーだし問題はないだろうと考えている。
死んでもまたやり直せば良い。死にゲーとはそういうものだ。
だが、この男にとってはそうも言っていられないのだろう。表情から必死さが窺える。
走ってきたせいか、男は咳き込み、荒い息を吐き出しながらゆっくりとその場に膝をついた。
「……そうだ、これどうぞ。大概の怪我は治るんじゃないですかね」
常備品の回復薬を手渡すと、男は謝罪をしつつもゆっくりとそれを飲み干した。
すると、傷口は塞がり荒かった息も整い、男は鳩が豆鉄砲を食ったようだった。
「一瞬にして体が軽くなった……?」
「効いてよかったですね。では――」
「ま、待ってください。貴女は一体何者ですか? 僕の攻撃を避けれるほどの身体能力。そして一瞬で傷を癒せる回復薬を持っているだなんて……」
困惑の色を浮かべる男に、ゲーム世界なのにそこら辺ツッコミが入るのかと疑問に思いつつも口を開く。
「神から言われてこの世界を救いにきた者です。……なんて」
「なんと……。貴女が今回の救世主様なのですね。それは心強い」
「……え??」
今この人"今回の"て言った?