この愛には気づけない
4 車内での会話 ①
会社の駐車場に停めてあったSUV車の助手席に座り、車が発進してから約一分後、私は低い声で哲平に問いかけた。
「機嫌悪そうだけど、一体、どうしたのよ」
「別に。というか、お前、遅い時間まで仕事してるんだな」
「終わらないんだからしょうがないでしょ」
「何でそこまで残業しないといけない仕事量がお前にふられてるんだ? 残っている奴以外にも他にも人はいるだろうが、そいつらにも割り振ればいいだろ」
「……愚痴を言わせたいの?」
冷めた目で尋ねると、哲平は前を向いたまま答える。
「言いたきゃ言えよ」
「一緒に働いてる女性の先輩なんだけど、仕事中にお手洗いに行ったかと思うと、三十分以上戻ってこないのよ! 体調悪いのかと心配になって見に行ったのよ!」
「お……おう」
「そうしたら、彼氏と電話してたのよ。このクソ忙しい時に!」
「仕事中にかよ」
「そう。あ、上には言わないでね。言うなら自分で言うから」
哲平に頼めば、上層部はすぐに動き出すだろうけど、上にチクったなんて言われたくない。
私の性格をよく知っている哲平は、苦笑して聞いてくる。
「本人には言ったのか?」
「一応、何らかの事情があるかもしれないから、何してんのか、話を聞いてみた」
「そしたら、なんて?」
「彼氏が風邪で寝込んでて寂しいって言うから、電話してましたって。だから、ああ、そうなんですか。大変ですね。早退すればどうですか、って言った」
「……寝込んでるのに電話はできんのか」
「そうらしいわ。一応、向こうが先輩だから、本当に言いたいことは言わずに我慢した」
流れる景色をぼんやりと見つめながら言うと、哲平が鼻で笑った。
「なんて言いたかったんだ?」
「彼氏さんってもしかして小学生ですかぁ? それなら、寂しいって言うのわかりますぅ。早く帰ってあげてくださいぃ! まさか、大の大人が風邪で心細いから電話で話してなんて、相手が仕事中ってわかってて言いませんよね? 私だったら黙って寝てろって言いますぅ」
「何で間延びした口調なんだよ」
笑う哲平を見て、機嫌が直ったことを確信した。作り笑いかそうでないかの見分けがつくくらい、私たちは長い間、一緒にいたのだ。
「わざとに決まってるでしょ。ところで、あんたはどうして、この時間に会社に戻ってきたの?」
気になっていたことを聞いてみた。